三岸節子<短歌ポスト>入選作品(平成21年後期分

選者 小塩卓哉(中部日本歌人会委員長)

■□■優秀作品■□■

*自画像*

真向かいし節子の描く自画像の瞳にこころ波打ちはじむ

新宿区 林 由実

《評》「こころ」とは歌の作者の心であるから、三岸の絵と向かい合ってそのモチーフを汲み取ろうとしている折の精神の働きを詠んだものである。自画像の中から若き日の三岸は、その前に立つものをじっと見つめてくる。自画像なのだから、その視線は鏡の中から自らに反射するように返ってくるものなのであるが、そのような視線に曝された時、鑑賞者は三岸の心の中に入ったような思いとなるのであろう。そのような感覚を「波打ちはじむ」と表現したことで、鑑賞の感動が読者にもリアルに伝わってきたと言える。

*アンダーソンの壺と小鳥*

しつないにせいじゃくくるがかごのなか
                 とりはしずかにうたくちずさむ

美和中学校三年生 佐藤 多恵

《評》すべてを平仮名書きで表現したことで、この絵のもつ独特の静けさが見事に表現された。「室内」のような漢字熟語を平仮名で表記すると、読者に強い印象を与えるからである。そのような表記をする歌人としては会津八一がよく知られている。そのような静けさを表現した上で、籠の中で小鳥が歌を口ずさんでいるという絵の内容を、丹念かつ忠実に表現したところにも好感がもてる。

*花*

この花でもあの花でもない魂の色に夢みる節子の花は

銚子市 三浦 好博

《評》たくさんの花の絵を描いた三岸は、その対象となる花を、随分と探し求めたことだろう。そしてその対象をどう描くか、どのように彩色するかで、まさに魂を削る思いで格闘をしたのである。今作者は一枚の絵を見てそのようなことどもに思いを馳せている。一枚の絵には、その絵が成り立つまでに様々な過程があるということまで感じさせてくれるような深い洞察が魅力の作品。

■□■佳 作■□■

*自画像*

自画像の節子のおもかげを持つ妻と相模の海の潮とたわむれる

藤沢市 石田 賢司

色がある心の奥に美しく目をあけても目をとじてても

一宮市 笠倉 一也

自画像の右に観えたる輝きと左に観えし内への闘志

名古屋市 西田 正幸

*アンダーソンの壺と小鳥*

鳥かごの中から見える夕暮れに羽根も休まる心の器

開明小学校5年生 加藤  薫

*アルカディアの赤い屋根*

赤々と夏の日射しに照らされて大きくうねる波にもみえて

高台寺小学校5年生 吉川 斗野

*さいたさいたさくらがさいた*

動きだしあばれるようなさくらの木いのちの鼓動自然の強さ

一宮市 山下 美和

意思ありて咲きにけるらん桜花節子の御霊(みたま)訪れてあり

一宮市 吉田恵美子

*その他*

めくるめく夕日に染まる街の端はアンダルシアの白き輝き

名古屋市 國谷富治雄

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