常設展


 三岸節子は、生涯にわたって花をモチーフとした作品を多く描きました。節子独自の花の作品へと昇華されていく過程を中心に、静物画や風景画などその画業全体を紹介します。



静物画の中の花
1930年代から50年代にかけて、室内画、静物画に取り組む中で、そのモチーフのひとつに花や壺などが登場します。初期の静物画に見られる花は、デフォルメされた形態の中にも花弁や茎などが、生き生きとしたタッチで描きこまれており、花一輪ずつの形や花の各部位にも作家の関心があることを伝えています。「花」(1950年代)(10)等に見られる色面分割された背景からは、写実性よりも画面全体のリズムを重視する後の抽象絵画への萌芽を見て取ることができます。





静物画家から風景画家へ
 1968(昭和43)年、63歳で再渡仏を果たした節子は、それまでの静物画家としての視線を一変させ、ヨーロッパの風景から得た印象をもとに、感じるままに自由に描く風景画に没頭しました。それと同時に、欧州の各地で出会った花や、アトリエを構えた南仏カーニュやブルゴーニュ地方のヴェロン村で机上に飾った花々を描き続けました。印象を重んじて描く風景画と同様に節子の花は、時代を追うごとに次第に輪郭線を失って抽象化し、ひとつの色彩をもった量塊(マッス)として表現されていくようになります。このことについて、節子は以下のような言葉を残しています。
 「長い間描き続けてきて、私の花は薔薇だとか百合だとかの花から離れて自分自身の花となっている。これは何の花ですかと訊かれても答えようもない。私の花の世界の花である。」(注1)この言葉から、自身の抽象世界の深化とともに、花もまた作家と一体となって昇華していく様子がうかがえます。

節子にとっての花
 「ただ、美しい花を、あるがままにうつしとるのでは、花のもつ不思議さも、生命も、画面に見出すことは困難でしょう。いかほど迫真の技術を駆使しえても、ほんものの、一茎の花に劣りましょう。私の描きたいと念願するところの花は、私じしんの見た、感じた、表現した、私の分身の花です。この花に永遠を封じこめたいのです。」(注2)と語り、生涯にわたって花を描き続けた節子。自らも庭に花を育て、肥料をほどこし、丹念に除草をして回ったといいます。節子にとって花は、愛情の対象であり、また芸術のインスピレーションを受ける題材として、終生無くてはならないもののひとつでした。

節子自身の桜を描く
 亡くなる1年前、93歳のときに描かれた100号の大作「さいたさいたさくらがさいた」(24)は、節子の画業の集大成ともいえる作品です。すでに絵具を溶いて塗りこめる力はなく、幾重にも薄い絵具を塗り重ねた上から油がしたたり、キャンバスとの格闘の痕跡とも言える独特のマチエールが生み出されました。神奈川県大磯のアトリエの裏庭にあった老木の八重桜や枝垂れ桜、山桜を中心に、それまでヨーロッパや日本各地で取材をした何種類もの桜を融合し、まるで生き物のように広がって渦巻く大きな桜の姿を描き出しました。「生命に執着し、執念を燃やす怖さが描けなければ、本当の桜を描いたことになりません。今の私なら描くことができます。美しさと怖さを」(注3)と語った節子最晩年の桜が、ここに永遠に咲き誇っています。

(注1)『三岸節子 華』求龍堂、1998年、(注2)三岸節子『花より花らしく』求龍堂、1977年
(注3)吉武輝子『炎の画家 三岸節子』聞き書きの部分より

展示目録

番号 作品名 制作年 和暦 年齢 縦×横(cm) 技法 材質
1 自画像 1925 大正14 20歳 30.5×22.0 3F 油彩 キャンバス
2 もや 1937 昭和12 32歳 60.0×72.5 20F 油彩 キャンバス
3 室内 1942 昭和17 37歳 91.0×73.0 30F 油彩 キャンバス
4 静物 1943 昭和18 38歳 60.6×72.7 20F 油彩 キャンバス
5

1951年頃

昭和26 46歳 52.8×45.6 10F 油彩 キャンバス
6 1952 昭和27 47歳 52.5×45.0 10F 油彩 キャンバス
7 盾を持った武士 1956 昭和31 51歳 130.4×97.1 60F 油彩 キャンバス
8 静物 1958 昭和33 53歳 65.0×80.5 25F 油彩 キャンバス
9 二つの像 1959 昭和34 54歳 80.3×130.3 60M 油彩 キャンバス
10 1950年代   64.2×41.2 変15M 油彩 キャンバス
11 1950〜60年代   53.0×45.5 10F 油彩 キャンバス
12 飛ぶ鳥(火の山にて) 1962 昭和37 57歳 116.7×91.0 50F 油彩 キャンバス
13 カーニュ風景 1969 昭和44 64歳 90.9×72.7 30F 油彩 キャンバス
14 花(黄色) 1971 昭和46 66歳 45.5×37.9 8F 油彩 キャンバス
15 細い運河 1974 昭和49 69歳 92.0×73.0 30F 油彩 キャンバス
16 雲と海の対話(夕焼) 1975 昭和50 70歳 65.1×100.0 40M 油彩 キャンバス
17 ブルゴーニュの麦畑 1978 昭和53 73歳 92.0×65.0 30P 油彩 キャンバス
18 僧院 1979 昭和54 74歳 100.0×100.0 40S 油彩 キャンバス
19 ニースのプロムナーデサングレ 1980 昭和55 75歳 45.0×32.0 8P パステル
20 城のある町 1988 昭和63 83歳 120.0×120.0 50S 油彩 キャンバス
21 アルカディアの赤い屋根
(ガヂスにて)
1988 昭和63 83歳 60.0×73.0 20F 油彩 キャンバス
22 白い花(ヴェロンにて) 1989 平成元 84歳 73.0×92.0 30F 油彩 キャンバス
23 花(ヴェロンにて)  1989 平成元 84歳 60.0×92.0 30M 油彩 キャンバス
24 さいたさいたさくらがさいた 1998 平成10 93歳 130.0×160.0 100F 油彩 キャンバス
25 「女人短歌」創刊号表紙絵原画 1949 昭和24 44歳 27.3×19.0   油彩
26 「女人短歌」135〜149号表紙絵原画 1983〜86 昭和58〜61   35.3×26.5   油彩
27 1950年代後半   19.0×78.0   陶板  

※都合により展示の内容を一部変更することがあります。すべて所蔵作品。作品目録のNo.は作品の並びと異なります。

■■■■■お問い合わせ■■■■■
一宮市三岸節子記念美術館
〒494-0007愛知県一宮市小信中島字郷南3147-1
TEL.0586-63-2892 FAX.0586-63-2893
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