常設展

 

 「わたくしは毎日、花やら壺やら果実を描く。身辺に転がつてゐるものはなんでも描く。花を描くにあらず、果実を描くにあらず、壺を描くのでもない。線があり、面があり、色彩があればそれでよいのである。造形的要素になればそれでいいのである。花も壺も果実も作品の象徴にすぎぬ。」(『黄色い手帖』「花・壺」より)

 三岸節子は、テーブル上の壺や果物のほか、室内にある家具やじゅうたんなど、身近な世界にある様々なものをモチーフに多彩な作品を描きました。特に初期の頃には奔放な色彩と筆使いで知られる画家・マティスのようなフランス近代美術に影響を受けながら、豊かな色使いと創造力で静物画や室内画を展開しています。
 身近なものを題材としながらも、その中に独自の美を見出し表現しようとした節子の静物画は、単なる“もの”を超えて私たちに語りかけてくるようです。



 《花・果実》(No.2)は、夫の好太郎が設立に参加した独立美術協会の第2回展に初出品し入選した作品です。濃厚な色彩と力強い筆致にはフランス近代絵画に傾倒していた当時の風潮が見られます。1934(昭和9)年、29歳の節子は、好太郎の突然の死により3人の幼子を抱え未亡人となってしまいましたが、忙しい生活の中でも絵筆を折ることなく制作を続けました。戦前は、色彩豊かな室内画を描いたフランスの画家・ボナールの感化を受けて、日常生活の中からモチーフを得た《静物》(N.5、6)などの作品を描きました。身近なものを題材に豊かな色彩と装飾性の強い構成により創りだされた画面は、戦後、《花と魚》(No.11)のように描くものの造形性を重視した作品へと展開しました。

 《室内》(No.4)にはソファに座っている人物が描かれています。おそらく女性であることは想像できますが、人物を特定するような要素は見られません。栗色の女性の髪の毛や洋服のひだやじゅうたんの模様などには、筆の流れがはっきりとわかる表現が見られます。節子の中では人物画ではなく、あくまでも室内画として考えられ、描かれた人物は画面を構成するモチーフのひとつにしかすぎなかったのかもしれません。


 三岸節子は生涯にわたって花をモチーフにした作品を多く描いています。庭で花々の世話をし、季節の花を花瓶や壺に生けることは、大きな楽しみでした。初期の静物画の中では画面を構成するもののひとつだった花は、やがて独立し描かれるようになってゆきます。画面を埋め尽くすようにひとつの色の塊となって表現され、花弁や茎といった細かい描写よりも色彩の美しさが強調されています。その時々に感じた世界を感じた色で塗り重ねることによって命が吹き込まれた花の作品は、“節子の分身”といえるでしょう。

 晩年に描かれた《作品T》《作品U》《作品V》(No.21〜23)は1992(平成4)年の「三岸好太郎と三岸節子展」にそろって出品されました。いずれも壺や瓶がモチーフとなっていますが、それまでの作品に登場してきたような個性的な文様も印象的なフォルムもなく、また花を挿すための役割もしていません。単純な形の壺や瓶がひと所に集まり、塊となって画面を構成しています。生活の中で目にすることのできる身近なものを題材にしながらも、長く創作活動を続けてきた1人の画家の歴史の重みと、その心象世界が表現されています。

 

 

 

 

展示目録

番号 作品名 制作年 和暦 年齢 縦×横(cm) 技法 材質
1 自画像 1925 大正14 20歳 30.5×22.0 3F 油彩 キャンバス
2 花・果実 1932 昭和7 27歳 90.0×72.0 30F 油彩 キャンバス
3 室内 1939 昭和14 34歳 80.0×130.0 60M 油彩 キャンバス
4 室内 1930年代後半〜40年代前半   60.0 ×90.9 30F 油彩 キャンバス
5 静物

1942

昭和17 37歳 52.7×45.0 10F 油彩 キャンバス
6 静物 1943 昭和18 38歳 60.6×72.7 20F 油彩 キャンバス
7 静物 1948 昭和23 43歳 53.0×73.0 20P 油彩 キャンバス
8 果物 花 1940年代     45.8×53.3 10F 油彩 キャンバス
9 1951頃 昭和26頃 46歳頃 52.8×45.6 10F 油彩 キャンバス
10 1952 昭和27 47歳 45.8×33.5 8P 油彩 キャンバス
11 花と魚 1952 昭和27 47歳 65.1×90.9 30P 油彩 キャンバス
12 かれい 1953 昭和28 48歳 90.9×60.0 30M 油彩 キャンバス
13 とうもろこしと魚 1963 昭和38 58歳 80.0×116.5 50P 油彩 キャンバス
14 朝がきた(ヴェネチア) 1971 昭和46 66歳 90.9×72.7 30F 油彩 キャンバス
15 スペインの白い町 1972 昭和47 67歳 72.5×60.0 20F 油彩 キャンバス
16 小運河の家(1) 1972 昭和47 67歳 100.0×81.0 40F 油彩 キャンバス
17 小さな町(アンダルシア) 1987 昭和62 82歳 89.0×116.0 50F 油彩 キャンバス
18 ブルゴーニュにて 1989 平成元 84歳 81.0×100.0 40F 油彩 キャンバス
19 1989 平成元 84歳 73.0×60.0 20F 油彩 キャンバス
20 白い花(ヴェロンにて) 1989 平成元 84歳 73.0×92.0 30F 油彩 キャンバス
21 作品T 1991 平成3 86歳 130.3×97.0 60F 油彩 キャンバス
22 作品U 1991 平成3 86歳 116.7×90.9 50F 油彩 キャンバス
23 作品V 1991 平成3 86歳 110.0×110.0 50S 油彩 キャンバス
自筆原稿 「絵画の美」 原稿用紙10枚  「婦人公論」(1948年3月号)掲載

※都合により展示の内容を一部変更することがあります。すべて所蔵作品。作品目録のNo.は作品の並びと異なります。

■■■■■お問い合わせ■■■■■
一宮市三岸節子記念美術館
〒494-0007愛知県一宮市小信中島字郷南3147-1
TEL.0586-63-2892 FAX.0586-63-2893
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