常設展


 三岸節子は、49歳のときに初めてフランスを訪れ、その後63歳から20年余りをヨーロッパで過ごしました。今回の常設展では、アトリエを構えたフランスや旅先で描いた風景画を中心に、渡欧以前の作品もあわせて展示します。



画業初期の風景画とヨーロッパへの憧れ
 節子は、画業初期には静物画、室内画を多く描きましたが、一方で風景画も残しています。初期の《風景》(No.2)では、木々と崖に囲まれたわらぶき屋根の民家が見えます。茶と緑の落ち着いた色彩で描かれた素朴な風景は、節子の夫である三岸好太郎も題材としており、二人で一緒に写生に訪れた我孫子の風景だと考えられています。土と自然を主題に朴訥(ぼくとつ)に描く作風は、この頃春陽会でも流行した、いわゆる「草土社風」(注1)を示します。また、独立美術協会に出品され、初入選を飾った《花・果実》(No.3)は、原色の豊かな色彩が用いられ、フランスで流行したフォーヴィスム(野獣派)の影響がうかがえます。節子の中にあったヨーロッパへの憧れが作中にも表れています。

初渡欧と原始美術への回帰
 ヨーロッパへの強い憧れから、戦後の1954(昭和29)年、49歳のとき、節子は念願の初渡仏を果たします。先にフランスへ私費留学をしていた息子黄太郎を頼りに、3ヶ月間、パリ、カーニュ、さらにはスペイン、イタリアを旅行します。それまで屋内で作品を制作することが多かった節子ですが、この旅行ではレンガの道や建物といった見慣れない海外の風景をスケッチしています(No.6,7)。同時に、日本の風土から作られた独特の魅力にも気づいたといい、帰国後は、日本の原始美術である埴輪や土器が作中に登場し、あたたかみのある画風を展開します(No.8)。


二度目の渡欧と風景画家としての活躍
 一度目の渡仏から14年後の1968(昭和43)年、63歳のとき、異国の風景が忘れられなかった節子は、再び息子黄太郎一家とフランスへ渡り、南東部のカーニュに住むようになります。1974(昭和49)年には、パリの画廊からの依頼を受け、「花とヴェネチア展」と題した個展を開催します。展示室には、《小運河の家(1)》(No.12)、《細い運河》(No.13)などの、イタリアを中心とした海外の風景画が多く並べられました。節子の個展は高い評判を呼び、異国の地で風景画家として名を広めました。これを受け、節子は帰国の予定を変更し、ブルゴーニュ地方ヴェロンにアトリエを構え、制作を続けました。節子の二度目の渡欧は、1989(平成元)年に神奈川県大磯町に戻るまでの20年間という長期に及びました。

三岸一家の描いた風景
 節子が海外で暮らしながら、作品の題材を探すうちに「やっと思い通りのモチーフに出逢えた」(注2)と感じたのは、スペインの風景でした。《小さな町(アンダルシア)》(No.20)のように、白い壁に素焼きの赤い屋根瓦の家が並ぶ風景は、作品の中に切り取られ、鮮やかに描かれています。節子とともにパリのアパートで制作に励んだ黄太郎は、アパートから見える風景を《わが家よりのエッフェル塔》(No.25)と題して描いています。青くぼやけたパリの街並みの中で、堂々としたエッフェル塔が空高くそびえています。また、1934(昭和9)年に31歳の若さで早逝した夫の好太郎は、初期から風景画に取り組んでおり、《風景》(No.24)のように青や緑を基調とした作品を手がけました。今回の展示では、好太郎と節子、息子黄太郎の風景画が並んでいます。異なる魅力を見せるそれぞれの風景画をお楽しみください。

(注1)草土社は1915(大正4)年に岸田劉生らによって結成された美術団体。当時団体内外で、岸田の作品に代表されるような露出した土や崖、草々を徹底して緻密に描く「草土社風」風景画が流行した。1922(大正11)年に設立された春陽会には草土社の画家たちも参加していた。
(注2)三岸節子『三岸節子ヨーロッパ デッサン集 1954-1989 旅へのいざない』求龍堂、1997年

展示目録

番号 作品名 制作年 和暦 年齢 縦×横(cm) 技法 材質
1 自画像 1925 大正14 20歳 30.5×22.0 3F 油彩 キャンバス
2 風景 1920年代     24.5×33.5 4F 油彩 キャンバス
3 花・果実 1932 昭和7 27歳 90.0×72.0 30F 油彩 キャンバス
4 室内 1930年代後半〜40年代前半 60.0×90.9 30P 油彩 キャンバス
5 アンダーソンの壷と小鳥 1951 昭和26 46歳 90.9×72.7 30F 油彩 キャンバス
6 サンポールの地下道 1954 昭和29 49歳 41.0×30.5 6F 鉛筆 パステル・水彩・紙
7 イル・サンルイ 1954 昭和29 49歳 41.0×31.0 6F 鉛筆 パステル・水彩・紙
8 鳥と琴を弾く埴輪 1957 昭和32 52歳 97.0×130,3 60F 油彩 キャンバス
9 カーニュ風景 1969 昭和44 64歳 90.9×72.7 30F 油彩 キャンバス
10 朝がきた(ヴェネチア) 1971 昭和46 66歳 90.9×72.7 30F 油彩 キャンバス
11 スペインの白い町 1972 昭和47 67歳 72.5×60.0 20F 油彩 キャンバス
12 小運河の家(1) 1972 昭和47 67歳 100.0×81.0 40F 油彩 キャンバス
13 細い運河 1974 昭和49 69歳 92.0×73.0 30F 油彩 キャンバス
14 雲と海の対話(夕焼) 1975 昭和50 70歳 65.1×100.0 40M 油彩 キャンバス
15 ブルゴーニュのブドー畑 1979 昭和54 74歳 80.3×100.0 40F 油彩 キャンバス
16 トネールの白い川 1980 昭和5575歳 130.3×97.0 60F 油彩 キャンバス
17 ヴェネチアの海 1985 昭和60 80歳 92.0×72.8 30F 油彩 キャンバス
18 イル・サンルイの秋 1987 昭和62 82歳 89.0×116.0 50F 油彩 キャンバス
19 モンマルトルの家 1987 昭和62 82歳 91.2×72.5 30F 油彩 キャンバス
20 小さな町(アンダルシア) 1987 昭和62 82歳 89.0×116.0 50F 油彩 キャンバス
21 アンダルシアの町 1987 昭和62 82歳 73.0×92.0 30F 油彩 キャンバス
22 坂の上へ(アンダルシア) 1987 昭和62 82歳 92.0×73.0 30F 油彩 キャンバス
23 花(ヴェロンにて) 1989 平成元 84歳 60.0×92.0 30M 油彩 キャンバス
24 三岸好太郎「風景」 1931頃 昭和6年頃 31.8×41.2 6F 油彩 キャンバス
25 三岸黄太郎「わが家よりのエッフェル塔」 1991 平成3   73.0×92.0 30F 油彩 キャンバス

※都合により展示の内容を一部変更することがあります。すべて所蔵作品。作品目録のNo.は作品の並びと異なります。

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一宮市三岸節子記念美術館
〒494-0007愛知県一宮市小信中島字郷南3147-1
TEL.0586-63-2892 FAX.0586-63-2893
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